【インタビュー】「私にとって蕎麦は一生の勉強です」

創業1963年。東京・蒲田で人気の老舗蕎麦店。蕎麦と日本酒は、驚くほど多種多様だ。そこには2代目店主・岩田茂雄さんの情熱とこだわりが魅惑的に交錯する。大原裕美さん(フリーアナウンザー)が香取屋の暖簾をくぐると、そこはまさしく蕎麦と日本酒のワンダーランドだった。
大原 55年の歴史と伝統ある、老舗の蕎麦店と伺いました。

岩田 昭和38年に創業。私は平成元年に香取屋の後継ぎ娘の家内と結婚し、先代(岩田八郎さん)が7年前に亡くなって私が引き継ぎました。

大原 香取屋さんは、「季節限定のそば」や、「本日のそば」など、オリジナルのメニューが充実していますね。

岩田 いろいろな美味しい蕎麦を、みなさんに楽しんでいただきたいです。各県の蕎麦をそば粉から品種まで研究して、お客様が飽きないようにいろいろな地域の蕎麦を提供しています。

大原 「本日のそば」の貼り紙に、〈八ヶ岳産信州そば荒挽き黒〉と説明書きもされていて…。さらに、他のメニューにも「生なめこそば」〈新潟県中魚沼郡津南町から直送〉、「穴子天ぷらそば」〈豊洲市場直送〉などと、ご主人のこだわりが垣間見ることができます。そして、白出汁の選択も自由にできることに驚かされました。
岩田 鰊そばなどは、白出汁の方が鰊の旨みを引き立ててくれますし、たぬきそばひとつとっても、お客様は「今日は白、明日は黒」と、その都度、出汁を変えて楽しんでいただけますからね。
大原 ハイスパイスの「香辛カレーそば」「香辛カレーうどん」のメニューにも惹かれました。

岩田 スパイスの専門店に通って研究させていただき、こちらの希望する麺に合うスパイスを数種類作っていただきました。その中から更に厳選した、オーダーメイドのスパイスを使っています。
大原 ご主人は、探究心が旺盛ですね。ご結婚された平成元年から蕎麦を研究され始めたのですか。

岩田 もともと私は、香取屋さんへ醤油などを納品する乾物関係の仕事をしていました。食べ物の好みも、若いときは蕎麦よりラーメンが好きでした(笑)。香取屋に来てからは、勉強のために日本各所の美味しい蕎麦を食べ歩き、蕎麦が大好きになりました。天ぷらなども、野菜などは季節感を大切に考えて提供しています。冷凍野菜を天ぷらにするのではなく、アスパラ、キュウリなども旬の時期に産地から直送しています。野菜スティックなどのおつまみとしても、旬な野菜は好評です。

大原 日本酒も多種多様。私の地元、静岡県の「磯自慢」があったのでびっくりしました!!
岩田 貴重で入手困難、珍しい地酒が香取屋にいらしていただければ、たくさん飲めるのも魅力のひとつだと思っています。時期に合わせて入れ替わり、多くの銘柄を常時ご用意しています。厳選する銘柄の仕入れは私が担当していますが、お客様へのお酒の説明などは家内。互いに日本酒ナビゲーターとして共同作業をしています。大原さん、メニューにもある「日本酒3種類のみ比べ膳」、この機会にいかがですか。

大原 ぜひ!(笑)。おつまみが付いて、1200円~ですね。各5勺グラス、3種類で銘柄によって多少お値段が変わるようですが…、まずは久しぶりに「磯自慢」から。すっきりしていて、美味しい!!  続いて、山口県の「Ohmineゆきおんな」。ほんのり甘く、さっぱりしていますね。最後に福島県の「飛露喜」。軽くて、とても飲みやすいです! もう最高に幸せです!! さらに、おつまみも多種多様。「鏡山酒造の酒粕クリームチーズ」や、「新潟県十日町生産者直送城之古菜(たてのこしな)のおひたし」など、こちらもこだわりがいっぱい。

岩田 蕎麦、日本酒同様に、おつまみもたくさんお客様に楽しんでいただきたいです。自家製のおしんこ、おでん、ぶり大根なども人気で、こちらは家内とおばあちゃんの共同作業です。
大原 これだけ大変なお仕事をされていて、出前もされているのですか。

岩田 蒲田周辺は最近、ワンルームマンシヨンが増えて出前が少なくなりました。出前は近所のみです。そこで、いかにお客様にお店へ来ていただけるかを考えた時に、蕎麦、日本酒、おつまみを充実させた、店内を活性化させる今のスタイルになりました。

大原 今後のご主人の夢をお聞かせください。

岩田 最近は、SNSの影響で珍しい地酒を飲みに若いカップルや、外国人の方々も多く来ていただけるようになりました。日本の伝統ある美味しい蕎麦とお酒を、幅広い人たちに堪能していただきたいですね。2年前から12月上旬に年1回、「日本酒まつり」を香取屋の恒例行事として開催(珍しい銘柄10数種類ご用意)していますので、毎年続けていけたらと思います。

大原 最後に、ご主人にとって「蕎麦」とは?

岩田 一生の勉強です。大原 今日は有難うございました。

岩田 有難うございました。
取材後記~大原裕美の「香取屋」からの帰り道~

ご主人の探究心と数々のこだわりに感心させられました。そして、明るく気が利いて笑顔が素敵な奥さま。実直で研究者肌のご主人が、うまいもの探求に専念できるのも奥さまの内助の功が大きいと思います。おそばは、ご主人にかかると変幻自在。まさしく、「蕎麦の魔術師」ですね。私が大好きな日本酒。香取屋さんでは、既に厳選されたお酒ばかりですので、どれを頼んでも間違いはありませんが、ワインのマリアージュよろしくペアリングも、きっと存在すると思います。多くの常連さんがされているように、奥さまにアドバイスをいただいたら、間違いないですね。今日、私のお気に入りのお店が、ひとつ増えました!!

蕎麦と地酒 香取屋

〒144-0051
東京都大田区西蒲田7丁目11-4
定休日:金、土曜日
営業時間:
月曜日~木曜日 11:00〜21:00 通し営業(ラストオーダー20:20)
日曜・祝日 11:00〜19:30 通し営業(ラストオーダー18:30)
手狭な店内の為、電話予約承ります。℡03-3738-8043